カナダで頑張る日本人女性

カナダで頑張る日本人女性 Vol. 27 Emi Yokokawa

カナダのどんな所が好きですか?

オープンであまり人に干渉しすぎずフレンドリーな所が気楽に生活できるので好きです。東海岸やいろいろな場所から移住してきている人が多いので受け入れてくれる感じがします。カナダ人の友人も少しずつ増え、日本人の方たちとも知り合うようになり交友関係も広がりました。またビクトリアは美しいビーチに囲まれ森や林、湖などの自然が多く、田舎町ののんびりした雰囲気があり居心地が良いです。

Emiさんの好きな場所

いつからカナダに住んでいますか?来た理由を教えてください

2012年に日本からビクトリアに家族で移住しました。息子はまだ2歳半でした。日本で陶芸の指導員をしていたのですが、フィンランドから陶芸家を招いたワークショップを開催したことがありました。その時に、あまり英語が話せず、直接会話をすることが出来なかったのがきっかけで、英会話を習い始めました。その時の先生が住んでいたのがバンクーバー島で、帰国された先生を訪ねて遊びに来た時にこの島の美しさに一目惚れしてビクトリアを選びました。

家族と

ここに来てからどんなことをしてきましたか?

2年間カモーソンカレッジに通い、幼児教育のディプロマを取得しました。簡単に就職できるかわからなかったので、来加してすぐに学校に通いました。子育てにも役立つだろうということと、幼児教育の人員が不足しているということで幼児教育を選びましたが、今では天職だと感じています。他にも、自分の陶芸作品を制作販売したり、陶芸教室で指導したり、合気道や茶道を習ったり、多忙ですが充実した毎日を過ごしています。

保育園の園庭

陶芸について教えてください。

日本では旅行会社に勤務していたのですが、北海道に引っ越ししたのをきっかけにこれまでにやったことのないことに挑戦してみようと思い陶芸を始めました。本格的にやりたいと思うようになり、北海道江別市の窯業試験場で2年間研修生として学ばせてもらいました。江別市は焼き物が盛んな地域で、セラミックアートセンターで陶芸指導員をしました。

パンデミックが始まる前にビクトリアで陶芸のスタジオを探していたところ、陶芸教室もあったのでインストラクターも週末にさせてもらいました。パンデミックでクラスが無くなってしまい、自分の作品を作る事にしました。今では自宅の片隅が工房にもなっています。そのスタジオはギャラリーも併設されているので、そちらで販売してもらっています。磁器の方が自分のデザインが映えやすいかなと思い、磁器を主にやっていますが、黒い粘土を使って陶器も作ってみたいと思っています。

有難いことに販路も増え、ご注文をいただいたりするようになりました。やりたいことはいっぱいあるのですが、限られた時間の中でしかできないので、バランスを取りながらやっていきたいと思っています。今年は、ティーポットを作ってみようと思っています。

Emiさんのショップサイトはこちら EMI YOKOGAWA POTERY

合気道について教えてください。

日本の武道の好きな人たちが集まっているので、日本文化への尊重も感じますし心地よくコミュニティに入りやすかったです。級が上がっていくのも面白いし、試合がないのが良いなと思いました。合気道は闘わずハーモニーを大事にします。合気道とは「気を合わせる」、相手がいなければ成り立たず、お互いを高め合う武道です。毎週1,2回通うことが身体に良い刺激になっています。幼児教育の仕事は体力のいる仕事なので、健康を維持するためにも必要ですし、陶芸は腰を痛める人が多いのですが、腰痛予防にもなる習い事です。私のライフスタイルに合っています。合気道ではツボを押したり、押しながら倒したりするのですが、そのツボが身体に良いのだということを後から知り驚きました。

息子さんと合気道

茶道について教えてください。

茶道もビクトリアに移住してから、陶芸と茶道には強いつながりがあるので、焼き物を作る勉強になると思い習い始めました。日本の文化で陶芸の文化が大事にされてきたということに触れることで陶芸のアイデンティティを思い出す機会となりました。私の作品のデコレーションも日本の伝統的な模様を取り入れてみたり、デザインに大きな影響を与えています。菓子皿もどんなお皿だと和菓子が映えるかなと考えたり勉強になります。

茶道

今何をしていますか?

普段、デイケアでフルタイムで働いています。カナダはインクルーシブケアなので障がいのある子達も一緒のクラスにいます。私は、サポートワーカーとしてスペシャルニーズの子達を主にクラスの中でお世話をしています。常に臨機応変に対応しなければいけません。言葉だけでは伝わらないときもあるので、アメリカンサインランゲージや絵カード、タッチパネル式のトーカーを使用します。その子のコミュニケーションスキルを伸ばしながら、私たちのコミュニケーションも伝わるように、相互コミュニケーションを高めるように努めています。いろいろな言語、メディア、素材を使うことで理解とコミュニケーションを深めていくサポートをしています。試行錯誤しながら、どうしたらその子が楽しみながら学べるか、日常生活を送りやすくなるのかということを考えながらやっています。

日本でのキャリアとは全く違う分野で働く

今の仕事にやりがいを感じています。音楽が好きでバイオリンを弾いていたこともあり、ウクレレを弾きながら子供たちと歌うのも比較的簡単に出来るようになりました。フレキシブルに子供たちのニーズに合うように柔軟にクラスを進めることが推奨されています。私は歌をよく歌うようにしているのですが、歌を通じて音感を身につけたり、発音を促進したり、新しい言葉を学べたりします。リズムやメロディに乗って歌を歌うことは言葉の習得にとても効果的です。

子供たちは私が持ってきた粘土で遊ぶのも好きです。口に入れても害はないので赤ちゃんのクラスでも使用できます。パンデミック期間中、プレイドー(小麦粉粘土)が使用できなくなったのですが、粘土には自浄作用があるので子供たちは遊ぶことが出来ました。粘土はずっと机の上に置いておくと乾燥して硬くなってしまいますが、また水に入れて再生利用することができるので自然環境にもやさしい素材です。

歌も粘土遊びもどちらも自分が今までやってきたスキルを生かせていて、今やっている仕事は天職なのではないかと思っています。

保育園での粘土遊び

日本とカナダのインクルーシブ教育について

日本では教育者としてお仕事をしていたわけではないので、今どういう状況かはわかりませんが、私が学生だった頃は、特別支援学級などはあっても障がいのある子が自分が通いたい学校で過ごしやすくなるようにフォーカスしている感じではありませんでした。もう少しサポートが行き届いて、認知が高くなって、柔軟性が上がると、きっと色々な子が幸せになれる教育方法が出来てくるのかなと思います。カナダではみんな一緒の教室で学びます、違いがあって当たり前。カナダの人達は人種や国籍などバックグラウンドも様々。それぞれを尊重しつつ、だけどみんなで幸せに生きたいというところが教育にも現れているなと思います。

カナダでは、高校までは教育も割とリラックスしていてのんびりさもあり学生生活が楽しめるように感じます。一方、カレッジ、大学では課題やテストも多く、かなり気を引き締めて勉強を頑張らないといけない環境になっている印象です。

保育園の近くにある森

何をするのが好きですか?

私にとって合気道は、身体を動かしてメンテナンスをするためにも必要です。茶道は心のトリートメントでホッとできる日本を感じる瞬間です。

茶道と合気道には、気に入っている共通点があります。どちらも「日常のごたごたをドアの所に置いてきなさい」と先生に言われます。一歩入ればそこは異空間。気持ちを切り替えて、「今ここだけ」に集中する。忙しいし、色々あるけれど、それは置いておいて、今は合気道をしている私だけ、茶道をしている私だけになれるのでメンタル的に自浄作用になっています。素の自分になれます。

合気道では人を投げたり投げられたりするのも良いんです。急所(ツボ)を押して極める技があるのですが、押されたときは痛いけれどもそのツボへの刺激は身体にいいそうなんです。受け身で前転後転することでもツボに刺激になっているようで、やればやるほど体の鍛錬になり健康になります。道着に帯を締めることで気が引き締まり姿勢も良くなります。また、続けていることで級が上がったり、積み重ねられることで目に見えるRewardになります。昇級試験を受けることが出来るのですが、昇級していくと励みになるし自尊心も高まります。

茶道では着物に帯を付けるので背筋がすっと伸びますし、お茶を点てると精神統一になります。週に一度、お茶室でおいしい和菓子とお茶をいただきながら、お教室の先生や生徒さんたちとおしゃべりする事は息抜きでもあり、自分を取り戻す大切な時間になっています。

茶室

今後やりたい事はありますか?

アメリカンサインランゲージの勉強を去年の秋から本格的に始めたので、今後も受講を続けもっと上達したいと思っています。ASLが上達できれば、もっとサポートできる範囲が広がると思うので。また陶芸も時間をもっと上手くやりくりして、私の作品を楽しみにしてくださっている方にお届けできるように制作時間を捻出したいです。

またUVicでECEの学位を取得するプログラムへの編入にも興味を持っています。こちらはオンラインで受講できるので、働きながら学ぶことができます。パートタイムのクラスがあるので働きながら学べるし、年齢も関係なくいつでもスタート出来る環境がカナダにはあります。

とはいえ、二つの仕事と習い事だけでなく家族との時間も大切にしたいので、バランスをうまく取って行きたいと思っています。

大切な家族

Emiさんは、来加後すぐにカレッジに入学してディプロマを取得されました。カレッジについて教えてください。

入学まで1年間日本で準備をしました。日本で英語を勉強していたのもあり、IELTSのスコアは取れていたのでCollegeにはすぐに入学出来ましたが、海外留学経験がなかったので、クラスのスタイルや英語のスピードについていくのに苦労しました。CollegeでもESLの生徒に対してサポートする動きがあり、週一コマ英語のサポートクラスを作ってくれたりもしました。課題を提出する前にプルーフリーディングしてくれる先生もいたり、English Support Centreという図書館のような部屋に常駐している先生が宿題の下読みをしてくれるサポートがあったり、積極的に利用しました。助けが必要だと伝えることも大切だと思います。

最後に、カナダに移住し子育てをしている方たち、カナダに移住しようとしている方たちにメッセージをお願いします。

子育ては一人でするのは大変だと思うので、出来るだけ人と接して情報を交換しながら自分のコミュニティを広げていくのがキーだと思います。一人で子連れで留学に来ていて、子育てと勉強に大変苦労されている方を見かけたことがあります。殻に閉じこもらず、出来るだけ自分のことも発信しつつ、色々なことに参加し、他人のことも助けながら自分も助けてもらうネットワークを上手く作れるようになると子育ての負担や不安が減ると思います。知らないと受けられないサービスの情報も入ってきます。

私は移住当時、少し離れたところに住む元英語の先生だったカナダ人の友人とその家族以外知り合いがいない状態でしたので、まずは日本語の子育てグループに参加しました。そこから日系のコミュニティに繋がったりしていきました。その後、私たちと同じ頃に移住した日本人家族と知り合い、同じカレッジを卒業し、PRの申請などの情報交換を暗中模索しながら励まし合ってきたことで不安な時期を乗り越えることが出来ました。パンデミック中、オンラインセミナーに参加して色々な国に住む日本人の方たちとも知り合うことができました。海外で他にも頑張っている人がいるんだなと思うと頑張れます。

職場や習い事、子供の学校の友達からの輪も広がって益々過ごしやすくなってきています。素晴らしい人や仕事、環境に恵まれることができて、思い切ってカナダに来てよかったなと思っています。

Emiさんのショップサイト

Emi Yokogawa Pottery

あとがき

インスタグラムで見たEmiさんの作品に一目ぼれをしてインタビューをお願いした。

「芸術家は繊細」と言う勝手なイメージを抱いていたが、Emiさんは2歳のお子さんと一緒にカナダに移住した直後から、学校に通い、資格を取り、就労ビザから移民されたパワフルな女性だ。カナダに移民するために勉強した幼児教育が彼女の天職となり、彼女がこれまでに積み上げてきた経験や知識がそこに集大成として生かされているのだから人生は面白い。

えみさんは、合気道、茶道で心と身体を整えながら、忙しい毎日を楽しんでいる。彼女のポジティブな姿勢を聞いているだけでこちらも心がすっきりしてくる。彼女の作品にはそれがよく表れていると思う。

今はサインランゲージを学び、9月からはフルタイムで働きつつ、学士号を取得するために勉強もし始めるそうだ。いつまでも挑戦を楽しみ続ける姿勢は、カナダにこれから移住しようとしている人たちや、移住してこれからどうしていこうかと迷っている人たちの励みとなるだろう。

Emiさんが、今後どのような作品を生み出していくのか楽しみだ。