カナダのどんな所が好きですか?
日本は周りのあたりまえのプレッシャーが大きく、出る杭は打たれるという文化です。正に打たれていた人だったので日本ではどこか息苦しさを感じていました。カナダでは、自分と同じような価値を持っている人と一個人として一緒に語り合うことができます。一人の人間として向き合って会話をすることが出来る。その関係が持てるということが私にとっては大事です。
また、生活の質が高いことです。子供たちも自由に子供として周りからのプレッシャー無しに生活できます。一個人として尊重されるという文化がとても好きです。

いつからカナダに住んでいますか?来た理由を教えてください。
専門学校を卒業後、バイヤーの仕事をしたいと思っていたので、英語の勉強のためにワーキングホリデーでカナダに来ました。
服屋で働きたかったのですが、なかなか雇ってもらえず日本食レストランで働きました。ビクトリアでツアーガイドをしたり、バンフでハウスキーピングをしながらスノーボードを楽しんだりして過ごしました。
日本に帰国後は服屋で働き、その後ワールドなどの衣類ブランドと一緒に靴のデザインを決める企画営業をしていました。元々友人だった夫と結婚したことをきっかけにカナダに移住しました。
カナダにきて一番辛かったことは?そこから何を学びましたか?
カナダ移住後に住んでいた地域にはアジア人がほとんどいなく、「美弥はアジア人」という壁を乗り越えて友達になってくれる人はなかなかいませんでしたが、バンクーバー近郊に引っ越してからは一個人として興味を持って接してくれる友達がたくさんできました。
その時々で手を差し伸べサポートしてくれる人達がいてこれまでやってこれた経験から、やはり一人ではなくコミュニティの中で私たちは生きていくべきなのだなと思います。誰かが手を差し伸べてくれたら、自分は一人ぼっちではないということが分かりますよね。仕事で学校を訪問していてもそう感じます。私たちの伝えたいメッセージの一つは、「このままの自分で良いのだ、ありのままの自分で良いのだ」ということです。
ここに来てからどんなことをしてきましたか?
夫が私立校のESLプログラムディレクターをしていたので、一年間の留学に来ている高校生のお手伝いをしていました。今思えばその子たちに性教育のようなことをしていました。それがきっかけで、自分は子供たちにこういうことを伝えたいのだと思い始めました。
今何をしていますか?
バーナビーとバンクーバーにあるCrisis Pregnancy Centreで働いています。SHARE (Sexual Health and Relationship Education)というプログラムを作り、高校を訪問し性教育をしています。私のバックグラウンドはファッションデザインなので、まさか私がカナダに来て10代の子供たちに英語で性教育をするとは思いませんでした。

CPCで働くことになったきっかけを教えてください。
小さいときから弱い物を守ることにパッションがありました。動物だったり、赤ちゃんだったり、幼児虐待だったり。日本にいるときは、若かったのもありそういった気持ちはなおざりになっていました。カナダに来てから友達もいなかったため、考えることや、ニュースを読む時間が増えました。そんな中、若い女の子がコンビニで赤ちゃんを生み、放置して逮捕されたなどという悲しいニュースを読むたびに涙が止まりませんでした。友人に私のパッションは何かと問われたとき最初自分では気づかなかったのですが、友人にそれがパッションなのではないのかと言われたことがきっかけとなりました。
ボランティアを出来るところがないか探していたところ、このセンターのバンクーバーのプログラムディレクターから連絡がありました。日本に行くから日本の話しを聞きたいということでお会いしたところ意気投合しました。生活のために仕事を探さないといけない状況ではあったのですが、どうしてもこの機関でボランティアをしたかったのでフルタイムで半年間ボランティアしました。その間に、5人の他のボランティアたちとSHAREを作り始めました。2008年にセンターが雇ってくれることになり、プログラムを進めることを任されました。
CPCの活動について教えてください。
妊娠したけれど、どうしていいか分からない人たち、迷っている人たちが私たちのセンターに来てカウンセラーと一緒に自分たちの状況に向き合って、周りからのプレッシャーが与えられない状況で自分の気持ちと向きあう空間を提供します。その中で、親になるのか、養子に出すのか、中絶するのか、それぞれのオプションをじっくりと考えたり、意思決定ツールなどもお渡しし、時間をかけて自分がどの選択をしたら生きていけるのかを考えます。選択した決定に対し、私たちは情報提供をしてサポートします。決定後、心のサポートが必要であれば引き続きサポートしています。
ホームレスで妊娠された方が来られることもあります。そういった場合は、色々なシェルターの方たちと連携して住む場所を見つけるのを手伝ったり、不法滞在者の場合はMSPがないためそういった方たちをサポートする組織に紹介したり、いろいろなコミュニティと連携しながらサポートしています。
出産することを決めても一人で出産する方もいらっしゃるので、出産に立ち会うこともあります。ママグループがあり、週一回センターに集まったりもしています。そこからコミュニティにも繋がるように支援しています。シングルマザー同士で子供たちが育っていくのを一緒に見守っています。おむつや粉ミルク、赤ちゃんの洋服などもあるので経済的に困難な方は、私たちのセンターで手に入れることもできます。
Crisisに立ち合う中で、これが起こらないPrevention(予防)が必要だと思い、プログラムSHAREが立ち上がりました。健康的な関係を持つにはどうしたら良いのかを子供たちに教えるために作りました。そうすればセンターに来る子供たちがいなくなりますよね。
SHAREについて教えてください。
今の学校の性教育は、セックスをするのが当然でどうやってセックスをするのか、どうやって安全なセックスができるのかをメインに教えていますが、私たちのプログラムはそれ以上に、セックスは身体的だけではなく、感情的、社交的、霊的な部分にまで影響を及ぼすからこそ、自分の価値を知り、それに基づいた意思決定をしていくこと、また健康的な付き合いは何か、などを科学的根拠に基づきながら探求していくプログラムです。
自分の価値観や道徳観を意識的に考えながら生活していないと、社会の「当然」「普通」が自分たちの考え方になってしまうものです。自分の価値を守るために必要な境界線、「同意」の重要性、健康的な付き合いは何か、ポルノグラフィーが与える影響力などを教えていく中で、いかに自分は価値のある存在で、自分のことを大事にし、他人からも大事にされるに値する存在だと胸を張って大人になっていってほしいと願っています。
親御さんにアドバイスはありますか。
子供たちが性的に興味を持つことは自然な成長過程です。私たち親はその成長過程を決して恥ずかしいことではなく、セックスはポジティブなことだと教える必要があると思います。私たち日本人のほとんどは親からそういった話も聞いていないので、どうやって教えたらいいのか悩むと思いますが、ポイントは年齢に応じて、普段の会話や子供たちの疑問にシンプルに答えていくことでオープンな会話を出来る関係、環境を築き上げることができると思います。私たち性教育者が子供たちと話す機会は一回しかありませんが、親には101回の会話ができると思うんです。何回もの会話を通して、子供たちは自分はどんな人と将来どんなお付き合いをしたいのか、自分の価値は何だ、将来の夢は何だ、セックスがどうそれに影響するのか考えていくことができます。
今後やりたい事はありますか?
日本人コミュニティから性教育をして欲しいという声をいただいています。日本人の方から聞くのは、自分たちが親から教えてもらっていないので何をどこから始めたらいいのか分からないということです。日本にこのプログラムを持っていくことが目標なので、日本のコミュニティに広げて行けたらいいなと思っています。

何をするのが好きですか?
家族でキャンプをするのが好きです。ウィスラー近郊やマニングパークに行ったりします。忙しい毎日から離れて静かな時間を家族で過ごすのは大事だなと思います。また、友達とコキットラムにある韓国スパ JJに行くのが大好きです。

あなたの信条やモットーを教えてください。
自分の心に正直に。私は、人のために役に立つ仕事がしたかった。子供の時に持っていたパッションは横道に一度は逸れましたが、また今は戻ってきました。
最後にメッセージをお願いします。
留学や結婚が理由でカナダに来たのかもしれませんが、もっと深い理由があるかもしれません。閉じこもらず、目も開けて、耳もあけて、心もオープンにして何が待っているんだろうって思って挑戦するといいと思います。
ありがとうございました。
編集者より
ちょうどMiyaさんにインタビューさせてもらったときは、アメリカの最高裁が中絶禁止を容認しようとしているときでした。中絶は、宗教や個人的見解が絡むとても難しい問題です。
日本の学校ではほとんど性教育というものを受けてこなかったので、カナダでは子どもたちがキンダーガーデンからしっかり性教育を受けていることにびっくりします(びっくりしていないフリをしていますが)。これからますます性に関心を持つようになるだろう子供たちにどう対応していったらいいのか考えているタイミングでMiyaさんとお話しを伺えてとても良かったです。
Miyaさんは、「私はどう感じているか」「私の価値は何か」「私はどうしたいか」、周りに流されることなく、自分を大切にすることを改めて感じ、考える性教育をされていらっしゃいます。子供たちだけではなく、ご両親へお話しもされているそうです。数人集まればお話しに来てくださるそうなので、もし興味のある方はご連絡ください。vancouver@optionscentre.ca
望まない妊娠、中絶が起こらないためにも、子供たちに「自分の価値」について今一度考えてもらう機会を作っているMiyaさんの素晴らしい活動が多くの人に理解され世界中に広まっていくと良いなと思いました。